ソウルノート SOULNOTE D-2の導入
なんだか最近のDACは小型で薄型に向かっているのが方向性だと自分勝手に決め付けていたのですけど、ネットでカタログや関連Webサイトを眺めていたら、ES9038PROの四個使用とかNOSモードで再生出来るとか興味津々な事が書いてあって読み進むうちに…クラクラっと意識が無くなって気がついたらプラスチックカードが宙に舞って巨大な物量投入型USB DACをポチっていました。
国産でDACを製造しているメーカーはアキュフェーズ・ エソテリック・ ティアック・ スフォルツァート・ソウルノート・マランツとか幾つかあります。今まではCDトランスポートのオマケ的位置付けだったDACが徐々にUSBDAC機能が追加になり、更に最近はプリアンプ機能を持ったネットワークプレーヤーに進化しています。現に私は本当に多機能なBrooklyn Bridgeを使って重宝しているわけです。
そこで満足して於けば良いのに何故かオーディオの虫が騒ぎ出してスフォルツァートDSPとfidataをDiretta接続すればさらに音が良く成るのじゃないか…等々と思い付いて調べ始めたりしていました。fidata とDiretta接続そして光LANも使いたくてスフォルツァートDSP Pavoの納期をショップに確認した所、今の御時世は電子部品の調達問題やらなんだかんだで3ヶ月以上掛かるとの回答でした。急に購買意欲が萎えたのですが、そこでおいそれと引き下がらないのが長年鍛えた「おカメラ・オーディオ・オタ物欲魂」です。
何かに興味を持って調べ始めた段階で、もう既に「欲しい欲しい病」のスイッチは入っていて、なんだかんだ言って新しいDACが欲しいだけなのです。……笑
ソウルノートの製品は会社を立ち上げた初期の頃は面白い物を出すなぁと凄く注目しておりました。しかしデザインが気に入らなかったので触手は伸びませんでした。このトラウマは今でも引きずっていますデザインはあまり良くないと思っている。
今回購入に至ったSOULNOTE D-2は本当にカタログスペックだけで判断しまして決めました。物量投入型のDACが欲しかったのです。
今使っているMYTEKと大きさを比較してみると
Brooklyn Bridge:218X44X206mm 1.6kg → SOULNOTE D-2:430X160X405mm 17.0kg
体積で14倍・重量で10.6倍も大きいのです。実際にここまで大きさが違う理由は何なのだろうと思って調べ始めたのが購入の切っ掛けです。
Brooklyn Bridgeはネットワークプレーヤーで入力だけでも7種類を持っています。尚且ネットにも繋がります。それに対してSOULNOTE D-2は単機能DACで、入力がUSBとSPDFとAEU / EBSの2系統しかありません。そしてリモコンもついていないと言う潔さです。
なぜこんなに大型なのか?まずは中身から見ていきましょうか
ディスクリート完全対称無帰還差動アンプが電源整流部も含めて、左右のチャンネル完全独立ツインモノコンストラクションで配置されています。基盤は2階建て構造でコンデンサーが林立した基盤がぎっしりと収まっているのが見られます。完全対称無帰還ディスクリートアンプの上下差動コンプリメンタリ入力にチャンネル当たり2個のESS製DACチップ「ES9038PRO」を割り当てて、無期限差動アンプを完全にドライブ制御しているそうです。「ES9038PRO」を合計4個採用したのは業界でも話題になりました。これはポイントが大きいです。
ネットも色々調べていて台湾のHi EndオーディオWebサイトの記事と写真は非常に物欲を刺激しました。日本のレビューはカタログスペックの転載みたいな記事が多いのですが、この台湾のWebサイトはしっかりと自分の言葉でレビューしています。AURALiC Aries G2と言うトランスポータを使用してUSBでSOULNOTE D-2を鳴らしているYoutube動画も有って非常に参考になりました。
サイトから引用させ貰った下の写真を見ると、このモデルは超お買い得でコスパ抜群な機材なのではないかと言うことに気付いてしまったのです。
コロナからウクライナの戦争と続き世界的な半導体不足や流通の混乱が深刻になっています。あのトヨタでさえ影響を受けて生産ラインが止まっているのに、SOULNOTEが影響を受けないはずが有りません。多分長期的には在庫切れや値上げの事態になってくるでしょう。一番怖いのは生産と供給を維持する為に入手困難な部品を代替えパーツに置き換える事です。勿論設計者が検証するのでしょうが、オリジナルとは音が変わってしまう事になります。そんな時にあるショップでD-2展示品を販売するとの情報です。もう買うなら今しか有りませんとなりました。…笑
更に中を覗いて目につくのが巨大なトロイダルトランスです。400VA仕様だそうですからハイパワーアンプ並の代物です。このDACを持ち上げるとこのトランスに重量が集中していて、完全にフロントヘビーに成っているのが分かります。このトランスの真下にスパイク足が出るように成っています。振動源であるトランスを中心にして振動対策をする方法は昔からSOULNOTEのお家芸です。今はファンダメンタルと言う会社を作られている鈴木哲さんがSOULNOTEに在籍していた頃からこの仕様でした。このアンプ筐体の三点支持とスパイク仕様は不安定ですから、安全性を考えると大手のメーカーはまずやらない方法です。購入時にスパイクは付属品で、標準品はノーマル平足が着いています。設置の仕方で出音が大きく変化します。
「SOULNOTEを買うユーザーはそんな事は百も承知で百人百通りのセッティングによる音の違いを楽しんでくださいね。音の違いを試行錯誤するスキルが無いと楽しくないですよ」と設計者に試されているような気がしてなりません。今はスパイク足にした時の受け皿がないのでノーマル平足のまま使っています。その代わりアンプ後方の2点の足にThaiの10Bath硬貨を挟んで設置している。それだけで低域の出方(沈み込み)が変わってくるので驚きました。これからも設置方法の試行錯誤は続くと思います。ああぁ 悩ましいけれど楽しみでもあるのかな(笑
その他、普通のメーカーのやらない事第二弾は天板(トップカバー)が共振します。天板がシッカリ固定されていないのです。指で弾くとベンベン鳴ります。これも昔からアンプの天板を外したほうが良い音がするという(オーディオあるある)なんですが、天板ユルユルを本当にやってしまった製品を買うのも見るのも初めてです。(笑
最後に普通のメーカーのやらない事決定版です。音質を最優先して、電源トランスに非常に感度の高いトロイダルトランスを採用しているとのことで確実にトランスが鳴きます。我が家の場合は電源対策でKOJO TECHNOLOGY Aray MKⅡやFURMAN Power conditionerを通したりしているのでマシな方なのでしょうが、わずかに唸りが出ています。製品に耳を近づけて注意深く聞き耳を立てると分かるくらいの唸りですから実用での差し支えはありません。電源の取り方を色々試しましたがKOJO TECHNOLOGY Aray MKⅡから極性を合わせて直接電源を取る方法が一番リアルな音に成りました。
NOSモードでの再生音 SOULNOTE D-2はNOSモードとFIR(8倍オーバーサンプリング デジタルフィルタ)モードの切り替えができます。そして驚くことにNOSモードがデフォルトで設定されています。
NOSとは(Non over sampling=オーバーサンプリングなし)の略で、デジタルフィルターを用いない再生の事です。NOS自体は昔からある考え方で、新しい技術ではないです。NOS-DACの問題点はアナログ・フィルター無しで平坦な 周波数特性を得るのが難しいということです。そして効果が明確に得られないので、やらなくなっちゃった技術ってところでしょうか。現行品のDACでNOSモードを積極的に搭載しているメーカーはHolo Audio DACとSOULNOTEくらいだと思います。Holo Audio DACは聴いた事がありませんが、ガレージメーカーで音に拘る技術者が居るとこういう技術を搭載した製品が出てくるのです。SOULNOTEの設計者は加藤秀樹という方でFacebookやYouTubeなどで積極的に様々な音に対しての拘りと手法を発信されています。拝見すると結構面白い。この方は昔マランツに在籍されて居たらしいですが、マランツからソウルノートに移られて、ご自身の音に対しての拘りを製品で具現化されて、花が咲いたのではないでしょうか。
NOS(Non over sampling=オーバーサンプリングなし)への拘り、、、、
フィルターのあるFIRモードとNOSモードとを比較してみましたが、NOSモードは躍動感があり、アグレッシブで音に厚みが有ります。 心に響く音です。いやぁ凄い音ですよ。低域の存在感とか音の密度とか空気感等の言葉での表現は色々ありますが、そんな事をここでツラツラ書いてもしょうがないので止めておきます。ただ一つ言えるのは、アキュフェーズやエソテリックからこの音は出てこないですね。日本でもこんな音を出すオーディオ製品が作れる時代に成った事に驚いています。
このDACがStereoSound誌のDAコンバータ部門で、アワードを4年連続1位獲得している理由がよくわかりました。
さて話はちょっと違う方向に飛びますが
最近の高級DACのトレンドは自社設計のディスクリートDACをトップエンドモデルに採用する事です。AKMとか、ESS Technology等の他社製のDAC ICの採用をやめて、FPGAと自社設計フィルターを使ったディスクリートDACのアーキテクチャとなっている。ディスクリート(discrete)というのは「個別の、分離した」という意味の英語であり、既製品であるDAC IC(ワンチップの集積回路)を使わず、抵抗やトランジスタなどのパーツを個別に選択して構成したDACです。
例えば今年(2022年)LINNはAKM(旭化成エレクトロニクス)のDAC ICである「AK4497」を使ったKATALYSTからディスクリートの「ORGANIK」に切り替わりました。余談ですが基板交換型ORGANIKアップグレードの料金は990,000円だそうです。エソテリックも完全自社設計のディスクリートDAC「Master Sound Discrete DAC」を設計して全ての処理を自社製FPGAアルゴリズムで音作りをしています。この流れの始まりはMSBやCHORD、dcs、Mola Mola 、Playback designs、等海外のトップハイエンドメーカーが音作りの要である凡用DAC IC(ワンチップの集積回路)を使用することから差別化を図った結果です。そして音響メーカーとしてはディスクリートDACを搭載することで、凡用DAC ICのヴァージョンアップ競争からも離脱して孤高の高みから見物できるわけです。ESOTERIC“Grandioso”GRANDIOSO-D1XやLINN Klimax DSMは500万円とか300万円と言う価格帯で販売されているハイエンドプレーヤーです。
実際には凡用DAC ICであろうがディスクリートであろうが其の部分で音の優劣が判断できるわけでは有りませんが、これからの方向性としてESS Technologyや AKMの凡用DAC ICを採用して製品開発を行ってゆくメーカーとそうでないメーカーに二分してゆくと思います。SOULNOTE ・ SFORZATO ・ Accuphase ・LUMIN・MYTEK等は今の所DAC ICを採用して音を作っていくのだと思います。
ソウルノート SOULNOTE D-2の導入で我が家のシステムので音は激変しました。全体的なクォリティの底上げは言うに及ばずですが、ここまで出てくる音の質が変わるのかと驚きました。冒頭に幾つか書いたようにD-2の筐体は大きくて扱いづらい製品ですが、その設計方法の中には音質とエンジニアリングの相関関係で、説明出来ないような不可思議な事象についても積極的に取り込んでいるのです。これはMytekの創始者Michal Jurewiczの設計姿勢と同じです。Michal Jurewiczはレーコーディングエンジニアの立場に近かったけれど、ソウルノートの加藤秀樹氏はよりオーディオファイル寄りの立ち位置なのだと思います。
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